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青森地方裁判所 昭和35年(行)5号 判決

原告 植田重

被告 青森県知事

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告は、「弘前県税事務所長が、昭和三五年三月二二日原告に対する滞納処分として別紙物件目録記載の不動産に対してした差押処分は、これを取り消す。弘前県税事務所長が、原告の右差押処分に対する異議申立に対し、昭和三五年八月一六日附でした棄却する旨の決定は、これを取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、弘前県税事務所長は、昭和三五年三月二二日原告が遊興飲食税特別徴収義務者であり、原告に遊興飲食税に係る県の徴収金の滞納があるとの理由で、その滞納処分として原告所有の別紙物件目録記載の不動産(以下、本件不動産という。)に対し、差押処分をした。

二、しかし、原告は、右税の特別徴収義務者に該当しないので、同年五月二一日被告に対し、異議の申立をしたところ、弘前県税事務所長は、同年八月一六日附で原告の右異議申立を棄却する旨の決定をした。

三、しかしながら、前記本件不動産に対する差押処分及び原告の異議申立を棄却した決定は、次の点において違法である。

1  原告は、バー等を経営したことがなく、原告の妻植田富子が原告と無関係で昭和三五年一〇月まで約二年間、バーを経営していたことがあるに過ぎないから、原告は、遊興飲食税の特別徴収義務者たるはずがなく、右税に関する県の徴収金の納入義務はない。

2  仮に、原告が地方税法の定めるところにより植田富子と連帯納税義務者であるとしても、原告は、納税義務者として法律上必要とする通知書その他督促状等の送達を受けたことがなく、また植田富子もその送達を受けたか、どうかは分らないのであるから、原告は、右遊興飲食税の納入義務はない。

3  弘前県税事務所長が前記異議申立棄却の決定をしたが、右決定は、県税の賦課徴収の執行機関たる被告が(イ)、地方自治法第九六条第一〇号、(ロ)、第二二五条第七項により、議会の議決を経てすべきものであるのにかかわらず、弘前県税事務所長が単独でしたものである。

四、よつて、原告は被告に対し、本件不動産に対する前記差押処分及び原告の異議申立を棄却した前記決定の取決を求めるため本訴請求に及ぶ。

と、このように述べ、

被告の主張事実を否認し、

証拠として、甲第一、二号証を提出し、乙第一、二、三号証の成立を認めた。

被告は、本案前の抗弁として、主文同趣旨の判決を求め、その理由として、次のとおり述べた。

一、原告の主張事実中第一項の事実全部、第二項の事実中原告が遊興飲食税の特別徴収義務者に該当しないとの点を除くその余の事実は認めるが、その余の原告の主張事実は否認する

二、原告は、青森県知事を被告として行政処分の取消を求めているが、そもそも本件滞納処分の原因となつている遊興飲食税(この税に係る附帯徴収金を含む。)の賦課徴収権は、地方税法第一条第一項第三号、第三条の二及び青森県県税条例(昭和二九年五月三一日青森県条例第三六号)第三条第一項並びに青森県県税条例施行規則(昭和三四年五月二九日青森県規則第六一号)第二条の規定により、青森県知事から原告の住所地を管轄している弘前県税事務所長及び同所に勤務する徴税吏員に委任されているものであり、したがつて、本件訴訟の前提となる異議申立に対する決定も当該弘前県税事務所長が被告知事から異議申立書の回付を受けて行つたものである。本件訴の提起は、地方税法第一三四条第七項から第一二項まで及び行政事件訴訟特例法第三条の規定により処分をした行政庁を被告として訴訟を提起しなければならないものであり、原告主張の行政処分をした行政庁とは弘前県税事務所長であり、被告ではない。よつて、原告の訴は、被告適格を欠く不適法なもので、却下されるべきものである。

と、このように述べ、

本案について、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め答弁として、次のとおり述べた。

一、原告主張のバー(その名称はリオ)の経営者は、原告であり、植田富子は、名義上の経営者であるに過ぎない。仮に、そうでないとしても、右両名は、事実上の共同経営者であるこれを法律上の規定と照合すると、前者の場合は、地方税法第一〇条の二第三項の規定により共同事業者とみなされ、よつて、同条第二項の規定により連帯納入の義務があるものであり、また後者の場合であるとするならば、同条第二項の規定により連帯納入の義務があるものである。したがつて、原告は、地方税法第一一九条及び青森県条例第一三四条の規定により遊興飲食税の特別徴収義務者になるものである。

二、また連帯納税義務者の一人である植田富子に対し、法律の必要とするすべての通知書及び督促状は全部送達済みであつて、地方税法第一〇条及び民法第四三四条の規定により原告に対してもその効力が及ぶものであるから、弘前県税事務所長がした処分はいささかの違法がない。

と、このように述べた。

(証拠省略)

理由

原告主張の第一項の事実及び第二項の事実中原告がその主張の日被告に対し、異議の申立をしたところ、弘前県税事務所長がその主張の日右異議申立を棄却する旨の決定をしたことは当事者間に争いがない。

そこで、被告の本案前の抗弁について、案ずるに、地方税法第一条、第二条、第四条、地方自治法一四九条によると、県は、地方税を賦課徴収することができ、県知事は、県税たる遊興飲食税の賦課徴収の事務を担任する執行機関であることが明らかであるところ、地方税法第一条第一項第三号、第三条の二及び青森県県税条例(昭和二九年五月三一日青森県条例第三六号)第三条第一項並びに青森県県税条例施行規則(昭和三四年五月二九日青森県規則第六一号)第二条の規定により、青森県においては、被告知事から県税の賦課徴収に関する権限の大部分が原告の住所地を管轄している弘前県税事務所長及び同所に勤務する徴税吏員に委任されていること、そして、弘前県税事務所長がした本件不動産に対する差押処分も、本件異議申立に対してした決定もすべて、右委任に基く権限の範囲内においてされたものであることを認めることができる。原告は、右決定は、県税の賦課徴収の執行機関たる被告知事がすべきであると主張するが、ある行政庁がその権限を他の行政庁に委任し得ることが法定されており、ある行政庁が右規定に従い、その権限を他の行政庁に委任し、他の行政庁が右委任に基き行政処分をした場合においては、特別の規定等がある場合は格別、一般に、本来委任庁に対して申し立て得ると定められた異議、訴願等の不服申立も右委任庁に対してでなく、実際に行政処分をした受任庁たる行政庁に対してされるべきものであり、これに対する決定、裁決等の処分も同行政庁においてすべきものであると解すべきであるから、原告の右主張は採用しない。けだし、受任庁は、権限の委任に基き委任庁のすべき行政処分をすることができるのであり、この場合、これに関連する不服申立に対して決定すべき権限だけを除外して委任したものとみるのは相当でなく、実際においても、処分をした行政庁において決定するのが、適切妥当であるからである。

従つて、原告の本件訴は、被告県知事から委任を受けて、実際に本件各行政処分をした弘前県税事務所長を相手方として異議の申立をし、また訴を提起すべきであり、被告知事は、本件訴においては、当事者適格を欠くものである。

よつて、原告の本件訴は、この点において、既に不適法として却下すべく、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 野村喜芳 福田健次 野沢明)

(別紙物件目録省略)

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